Something Poetical Private

私的で詩的な映画の感想を書いています。

「永い言い訳」をみて

最初は面白くないなって思ったんだけど、ひょっとしてそれが狙いだったんじゃないかななんて思ったりして。

今回の記事は考察メインです。あまりストーリーにも演出にも触れません。だからネタバレもしてないですが、たぶん未見の人は読まないほうが良いとは思います。

今日は「永い言い訳」について書いていこうかなと。普段僕は映画記事を書く時はだいたい映画を見た当日には記事を書き始め、勢いで書いて当日中に公開することが多い(たまに日付を跨いでしまうけれど)。でもこの「永い言い訳」は今日見たわけじゃなく、先週の金曜日(10/14)に見た。そして、これについてはなんでかあまり書く気になれなくて放置してた。

「淵に立つ」のあとにみた映画だから正直インパクトは薄かったし、その翌日に見た「ダゲレオタイプの女」が面白かったのもあり、「まぁ僕が取り上げなくても誰かが書くだろう」なんて思ったりしたんだ。でも、昨日散歩していて思い返した作品は他でもなくこの「永い言い訳」だったんだ。そのきっかけはひとつの疑問: この映画、なんで面白くしなかったんだろうってこと。西川監督の映画を見るの初めてだったけど、力のある人だってのはこの作品だけで感じたし、じゃあなんで面白くしなかったんだろう、なんで泣けない、感動もさせない、あんまり笑えもしない映画にしたんだろうなって。

最初は僕が歳が離れているせいかな、人生経験が足りないせいかななんて思ったりしたんだ。でも僕は「聲の形」とかで書いたようにそれなりに後悔してもしきれない思いも味わったし、どうしても手に入れたいものがどうあがいても手に入らないことがあるってことも知ってしまったし、昨日できたことが今日できるとは限らないことも知ってしまっている。

ちなみにこの記事の書き手はまだ23歳です。自分でももう少し夢を見させてくれよ神様って思っています。

面白くないのは意図的な演出?

ともかく、「若いから分からない」ということで済ませるのは僕の気が済まないからもう少し考えてみた。そして思ったんだ、「この映画、わざと面白くしなかったんじゃないかな」って。ていうか、「淵に立つ」の感想を書くときに映画は決してエンタテインメントである必要性はないと自分で書いているのになんで気付かなかったのか、恥ずかしい。

この映画は、主人公の津村啓が作中でテレビのドキュメンタリー番組づくりに協力するシーンがある。それが妻の死に向き合うひとつの方法であると信じて。しかし実態はテレビ局側の要請の演出が多く、創り上げられたものはドキュメンタリーという名の感動コンテンツだった。津村は善意で友人の子育てを手伝っていたが、その子どもたちをも巻き込み、事故の被害者遺族が残されても懸命に生きている、母や妻を失った苦しみに耐えながら……と。虫唾が走る*1ほどの典型的な感動コンテンツ。

そうして僕はこのシーンの意図にやっと気付いた。この映画は「人の死を使って感動させるなどという誰でもできることはしたくなかった」のだろうと。そう考えると、この映画の要素が全体的につながってくる。演出は全体的に抑えめで、演技も印象に残らないほどに「普通」だ*2。子どもは居るが、子どもが親のために何かするという映画でもない。徹底して控えめに、なるべく日常生活を描き作られているのは、きっとこの映画をコンテンツにしたくないからじゃないか。

きっと現実に震災や事故などで本当に親しい人の死に直面したとき、感動させる出来事もなければ、泣けるようなことも起きない。人によっては津村のように受け入れるまで泣けないかもしれない。そしてそれが「普通の人生」なんじゃないだろうか。映画はいつも人生を装飾しすぎていて、その装飾を取り去った時に面白くなくなると作り手も観客も思い込んでいる。僕が「淵に立つ」を見て書いたのは映画の装飾が多すぎるのは20世紀のやり方だ、ということだった*3。この映画はそうした装飾を外し、コンテンツとして創り上げることに反抗し、本当に真面目に妻の死に向き合った男の姿を描いたのではないか。

芥川賞

わかりやすい感動なんていくらでも創れることはおそらくこんな辺境のブログを読んでいるあなたがたなら知ってるだろうし、西川監督も間違いなく知っている。だから感動させるような物語に意図的にしなかった、面白く作らなかったのだろう。小説でいうと芥川賞*4のような面白いかどうかは判断が難しいが、明確には現れない「毒」が含まれている作品だと感じた。だからこそ、見てから時間が経っても心のどこかをチクチクと刺し続ける。その針先がどこかわからないからこそ、ダメージが蓄積され永遠に続くように感じる。今までみた映画の仲では「薬指の標本」を思い出した。

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そうか、これも映画なんだな。「淵に立つ」でこれが映画だと大騒ぎしたのに、また無意識にエンタテインメントを求めていた自分を恥じる。どちらも同じように映画なんだ。

永い言い訳 (文春文庫)

永い言い訳 (文春文庫)

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*1:個人の感想です。

*2:普通の演技って簡単にできることじゃないからもちろんこれは賞賛だ。

*3:根拠のない暴言である。

*4:原作は直木賞が取れるかもしれないと騒ぎになったらしいが、この映画を見る限りでは芥川賞っぽいと感じた。小説は未読なのでなんとも言えないが。