Something Poetical Private

私的で詩的な映画の感想を書いています。

罪からの解放 映画「聲の形」

私情を伴ったまえがき

思っていたより普遍的なテーマを扱う映画だったが, 誤解されやすい気もする.

この映画は間違いなく「贖罪」*1の映画だ. 過去に自分が犯した罪を認め, 反省し, その態度を示すこと. 誰にでもできそうで, 案外誰にもできないこと. 主人公の石田はそれをやってのけた. しかし彼にも偶然はある. たまたま西宮本人, 佐原, 上野といった面々それぞれが生きていること, そして長束と馬渕といった客観的な, そして石田に好意的な友人がいたこと……これらはすごく大きな要素だ. そして最後彼は罪から解放され, 前を向けるようになる. 人の顔を見られるようになる.

うらやましい. 私には彼が羨ましくてしょうがない. 謝る相手が居ること, 客観的に自分を見てくれる友人がいること, そして当事者の多くが不貞腐れないで自分なりに前を向いていること……私には彼が羨ましくてたまらない. 憎いとすら感じる. 私もそうありたかった, この映画を見てやっと気づけた. 私は余りにも愚かだったと.

やってしまってから罪の大きさに気づくことがある, 私もそうだった. しかし, 気づいた後何をするのかが重要でもある. 私は十分なことをしてやれただろうか. 聞きたくてももう聞けない. 私は謝りたいのにもう二度と謝れない. 彼は謝るべき対象を救いさえしたのだ. 彼に羨望の念を覚えて誰が私を咎められるだろう.

この映画で私は救われなかった. 私は自分の罪の大きさを自覚するだけだった. しかしこの映画, 紛れもなく私に突き刺さった. 私が数年前に導くべきだった答えを教えてくれた. 私はこの映画に多量の感謝と, 多少の罵声を送ろうと思う. それがいま, 私にできる数少ない罪を償う方法だからだ.

映画「聲の形」は紛れもなく罪を背負うものへ贈られる, 贖罪の物語である.

諸注意

さて, 私情を伴ったまえがきが重すぎたのでここからはかるーく行きましょう. 自分のせいなんですけどね. ここからは敬体で書きます. 本来ひとつの文書に常体と敬体が混じっていると気持ち悪いんですけど, 最近敬体じゃないと映画の感想が書けないのですよ. まえがきは書けるけど.

さて, まえがきを読んでわかったかたいるかもしれませんが, 今回あまりネタバレとか気にせず書いてしまったので, もし見たい人は読まないほうが無難かもしれません. かといって明示的にネタバレをしてはいないと思うのですが…….

Staff & Cast

まず配給は松竹というのを劇場で知って, 「松竹かよ……」という気持ちに. 私は東宝が大好きってわけじゃないけど, 松竹の映画にあまりいい思い出がない. そして予想通り(?)この映画もいい思い出ではない. それはこれから書いていくとして, 松竹なので東宝にお金を落としたいから見に行きたいと思っている人は行くのをやめましょう.

今まで明言していなかった気がするけれど, 基本的に僕はスタッフやキャストについては敬称略です.

原作は『聲の形』, 講談社コミックスと要するに少年マンガ. 作者は大今良時. 今回は原作は未読です. 存在は知っていて知り合いが単行本を持っているのを見たことはあるけれど読んでいない, くらいにあまり興味がなかったですね.

監督は山田尚子, この人の映画初見ですね. 京都アニメーション出身でまだ 31 歳. 少し過去作を調べてみると「けいおん!」, 「たまこラブストーリー」, 「響け! ユーフォニアム」と名前だけは知っているものが多い*2. 若いのにこのような作品の監督を勤め上げるとはなかなか敏腕のご様子.

脚本は吉田玲子, こちらは監督とは違ってベテランの様子. 既に「映画けいおん!」や「たまこラブストーリー」でもタッグを組んでいた様子. なるほど, 見ていないので何もコメントできないけれど. 他にも作品は多数.

音楽は牛尾憲輔. ググったけどよくわからない人. 誰か説明してくれ. そして顔も見たことないけど音楽聴く限り我が強そうな気がする.

アニメーション制作は京都アニメーション. 京アニ, ポニーキャニオン, 朝日放送, クオラス, 松竹, 講談社による製作委員会方式の映画です.

キャストは, 主人公の石田将也役は入野自由*3, 「千と千尋の神隠し」でハクをやってた人ですね. そしてヒロインというかなんというか, 西宮硝子役は早見沙織. 「あの花」で「つるこ」やってた人, うんうんなるほど. セリフが難しくて大変だっただろうに. あと大事な人物は結弦くん役(悠木碧), 高校生になってからの石田の初めての友達の永束(小野賢章), 真柴(豊永利行). 小学生のときにいろいろあった人たちが, 佐原(石川由依), 川井(潘めぐみ), 上野(金子有希).

相変わらず声優は覚えられないな……困ったもんだなぁ.

主題歌は aiko. aiko の音楽は, こう, いいよね(語彙力の貧困).

Sammary

岐阜県大垣市の高校生, 石田は死のうと思っていた. 彼には死ぬ前に 2 つだけやりたいことがあった. ひとつは, 小学校 6 年生のときいじめていた耳が聞こえない女の子「西宮硝子」に会うこと. もう一つは, 石田が彼女の補聴器をいじめの課程で壊したのを弁償した母親にそのお金を返すことだった.

石田は貯めたバイトの給料と, 部屋の中のものを全て売り払い用意した 170 万円を母親に渡した. そして, 西宮に会った. 小学校の時は理解しようとさえしなかった手話で「友達になろう」と言った. いじめていた自分にそもそも会ってくれたこと, 手話に答えてくれたこと. 石田にとって西宮に会うのは死ぬ前の儀式でしかなかったはずだが, 彼女に認められたことは彼にとって大きな出来事だった. 実際, 彼はその帰り道死ねなかった.

死のうとしたことが母親にバレて, 石田は結局生きることになる. 学校では浮いていて, 人の顔もロクに見られない, 人の話を聞くことができない. きっかけは全て「西宮硝子へのいじめ」だった. しかし偶然, 永束という友達ができる. 彼は小学校のときのいじめのことを知らず, 今の石田だけを見て友達になってくれた. 彼の積極性にも助けられ, 石田は少しずつ西宮をはじめ, 小学校 6 年生の交友を取り戻していく.

終わるはずだった人生が, 確実に変わろうとしていた.

Impressions

障害者の話? 違います.

これは石田が過去の罪を清算する話です. 最初から, 彼は罪を償おうとしているし責任を負おうとしている. しかしその方法が最後までネガティブで間違っていて, 最後にやっと正しく罪を償う. そして彼はその罪から解放され, 涙がこぼれてくる. そういう話です.

彼は最後まで自分がしたことに向き合っている. 実際, 彼は開始 5 分でお金を返して死ぬという形で罪を償おうとし, それは違うと母親にたしなめられる. 以後その繰り返し. 最初から最後まで一貫して, 石田が彼女のいじめを反省する話でしかない. 見ればわかるけれど, 西宮が障害者である必要性がどこにもない. タイトルが「聲の形」になっているけれど仮に西宮が健常者でも, 全く同じとは言えないが似たような話は作れるでしょう.

では, なぜタイトルが「聲の形」なのか. それは石田も西宮と同じで人の声が聞こえていないからです. 人が何を言っても聞かない, 注意されてもやめない, それが小学校時代の彼だった. そして高校生になっても, 彼はあまり人の話が聞けないままで変わっていない, 石田も耳が聞こえないのとほぼ同じなのです. しかし, 永束くんを通して彼は人の話を少しずつ聴けるようになっていく, 人の話(声)を聴くことがどういうことなのかがわかってくる. そして西宮を通じ人に想いを伝えることがどれだけ大事なのかを身に沁みて感じる. それが最後に彼が肌で感じ, 理解した「聲の形」なのです.

上の解釈を踏まえた上で書くと, たぶん多くの人が「知らんがな」で終わるんじゃないかなと思うので, 私情を伴ったまえがきの意味が分かる人だけ見れば良いんじゃないかなと思っています. これは前述のように障害者を利用して感動させる映画ではありませんので, そういうのを期待して見に行ってはいけないかなと. 24 時間テレビみたいなのが好きな人のことを言っています.

じゃあ映画としてほめられるの?

話はわかった. では映画として褒められるのかと言いますと, この映画別に良作だとは思いません. バランスが悪いです.

前半のいじめのシーンは丁寧にやるべきだと思うけれど, そのせいで後半の石田の「今」が少し見えにくくなっている. バツ印の意味, 途中までさっぱりわからなかったのは伏線だからなのか説明不足だからなのかどっちだろう.

あとあんまりメリハリがない. 盛り上がるシーンが最後のほうに何度かやってくるのだけど, そうしたシーンでうまく日常からうまく非日常に移動できてない. まぁ難しいけど.

他にも音楽. 泣かせるシーンで音が全面的に主張してきてどうするんだよと個人的には怒れましたね. 西宮が泣き叫ぶのを石田がなだめるシーンでセリフを聞き取りづらくしちゃダメでしょマジで. 本当に. あのシーンにの音関しては絶対に許さないからな.

このように重い場面を演出したいのはわかるのだが, 音とセリフのバランスがあっていない場面が散見され, そもそもシーンと音楽がなんかあっていないというか, 違和感しかない場面が 2 つくらいあってどうなんかなと. この映画「聲の形」だって言ってるのに音で損してますね.

絵とか

絵については好みはありましょうが, 僕は一瞬写った赤い電車が見られたのと, 妙に繊細に作ってあるジェットコースターが良かったのでだいたい満足です. あまりカット割りとかが不自然だとは思いませんでしたね……

Conclusion

良い話だけどいい映画ではない, そんな感じでした. もっとバランスとれたんじゃないかなと思う. おそらく縦のつながりはうまくいっていたけど横の連携があまり取れていないっていうよくあるパターンじゃないかなと思うので, あまりバランスとか気にしない人には十分楽しめると思います. それぞれのキャラも立ってるし, 僕は石田に重点を置いて書いたけど他の人たちもそれぞれに深い考察できる, 深い話だと思います.

本当に音楽が気に食わない. aiko の主題歌は良かったよ. この映画だからとかじゃなく aiko だからよかっただけだけど.

恋をしたのは(通常仕様盤)

恋をしたのは(通常仕様盤)

おまけ: こんな人におすすめ

過去に犯した罪にいつまでも囚われていて解放されたい人.

そんなやついるのかわからないけれど. そうね, 罪と言っても黙って姉のプリンを食べたくらいの罪ではこの話は響かないかもしれない.

うまく喋れない演技を見たい人

うまく喋れない西宮の演技, わりとすごいのでこれを見るためにこの映画見るというのはわりとアリだと思う.

*1:あるいは石田が過去の責任をとる話と言い換えてもよい.

*2:全部見てない.

*3:いりの みゆと読むんですねこの人.